シナモンも生姜も漢方薬の材料!?身近な食べ物から知る奥深すぎる生薬の世界

シナモン。
ショウガ。
みかん。
山椒。
ナツメ。
はちみつ。
突然ですが、これらに共通するものは何だと思いますか?
「全部食べ物?」
もちろんそれも正解です。
しかし、薬学という視点で見ると、もう一つ面白い共通点があります。
実は、これらはすべて「生薬」と深い関係があるんです。
こんにちは。薬学部受験専門塾PharmAssist代表のてら先生です。
薬学部を目指している高校生の中にも、
「漢方薬って、おじいちゃんやおばあちゃんが飲む薬じゃないの?」
「茶色い粉で、独特な味がする薬」
「なんとなく自然由来で体に優しそう」
くらいのイメージしか持っていない人は多いと思います。
しかし、漢方や生薬について少し調べてみると、かなり面白い世界が広がっています。
たとえばシナモン。
カフェでシナモンロールを食べたことがある人もいるでしょう。
ショウガ。
豚の生姜焼きにも使います。
みかんの皮。
普段なら、そのまま捨ててしまう人がほとんどでしょう。
山椒。
うなぎにかける人もいますよね。
こうした身近なものが、薬として使われてきた歴史を持っています。
しかも、生薬は植物だけではありません。
中には、
ヒキガエルの分泌物。
牛の胆のうにできた結石。
カキの貝殻。
大型哺乳類の化石化した骨。
といった、
「それが薬になるの?」
と思ってしまうようなものまであります。
今回は、薬学部を目指す高校生にもぜひ知ってほしい、漢方薬と生薬の世界について紹介します。
読み終わる頃には、漢方薬を見る目が少し変わっているかもしれません。
そもそも生薬って何?
まず、「生薬」という言葉から説明しましょう。
生薬は「しょうやく」と読みます。
簡単に言えば、植物、動物、鉱物などの中から薬として利用する部分を取り出し、必要に応じて乾燥や加工などを行ったものです。
生薬という言葉から、
「薬草=植物」
をイメージする人も多いと思います。
実際に植物由来の生薬は非常に多いです。
根。
茎。
樹皮。
葉。
花。
果実。
種子。
地下茎。
など、植物のさまざまな部分が利用されています。
しかし、生薬は植物だけではありません。
動物の一部や分泌物、鉱物などが用いられることもあります。
このあと紹介しますが、センソという生薬はヒキガエルの分泌物です。
ゴオウは牛の胆のうにできた結石です。
ボレイはカキの貝殻です。
「薬=白い錠剤」
というイメージを持っている高校生にとっては、かなり意外なのではないでしょうか。
現在、日本で医薬品として使われる生薬については、日本薬局方などで基原となる植物や動物、使用する部位、成分などについて規格が定められています。
つまり、
「同じ植物っぽいから何でもいい」
というわけではありません。
ここは今回の記事を読むうえで非常に大切です。
生薬と漢方薬は同じものではない
もう一つ最初に覚えてほしいのが、
生薬=漢方薬
ではないということです。
生薬は、漢方薬を作る材料だと考えると分かりやすいです。
多くの漢方薬は、複数の生薬を決められた組み合わせで配合して作られます。
たとえば、高校生でも名前を聞いたことがあるかもしれない「葛根湯」。
風邪のひき始めなどに使われる漢方薬として有名ですよね。
葛根湯には、
カッコン。
マオウ。
タイソウ。
ケイヒ。
シャクヤク。
カンゾウ。
ショウキョウ。
といった複数の生薬が組み合わされています。
つまり葛根湯という一つの漢方薬の中にも、さまざまな生薬が入っています。
料理に少し似ているかもしれません。
小麦粉だけではケーキではありません。
卵だけでもケーキではありません。
砂糖だけでもケーキではありません。
いくつもの材料を決められた量や方法で組み合わせることで、一つの料理になります。
漢方薬も、単純に生薬を一つ飲むというより、複数の生薬を一定の考え方に基づいて組み合わせて使うものが多いです。
だから、
「ショウガが体によさそうだから大量に食べれば、漢方薬と同じ効果がある」
という話ではありません。
ここは絶対に勘違いしないでください。
身近な生薬①シナモンと桂皮
まず紹介したいのがシナモンです。
パン。
お菓子。
コーヒー。
紅茶。
アップルパイ。
シナモンロール。
さまざまな食べ物や飲み物に使われています。
このシナモンと非常に関係が深い生薬が、
ケイヒ
です。
漢字では「桂皮」と書きます。
桂皮は、トンキンニッケイなどの樹皮を薬用として利用する生薬です。
つまり、植物の葉ではなく木の皮を利用しています。
シナモンのあの独特な香りを思い出してみてください。
「生薬」と聞くと、土のようなにおいがする謎の植物を想像するかもしれません。
でも桂皮を知ると、
「あれ?意外と知っている香りかも」
となります。
桂皮は、さまざまな漢方薬に配合されています。
たとえば桂枝湯や桂枝茯苓丸などです。
また、先ほど紹介した葛根湯にも桂皮が入っています。
つまり、
「シナモンのようなものが漢方薬に入っている」
と知るだけでも、漢方薬への距離が一気に縮まりませんか?
食品のシナモンと生薬の桂皮は完全に同じではない
ただし、ここで大切な注意があります。
スーパーで買ってきたシナモンパウダーと、医薬品として使われる桂皮を、
「完全に同じもの」
と考えるのは正確ではありません。
生薬として使う場合には、基原となる植物や使用部位、品質などが定められています。
食品として販売されているシナモンには、異なる種類の植物が使われることもあります。
今回紹介する身近な食べ物についても、基本的に同じです。
「同じ植物だから、そのまま薬として使える」
という意味ではありません。
身近な食べ物と薬の世界がつながっている。
その関係性を楽しんでもらえればと思います。
身近な生薬②ショウガ
次は、さらに身近です。
ショウガです。
生姜焼き。
ジンジャーエール。
薬味。
鍋料理。
かなり身近な食材ですよね。
実は、ショウガも生薬として利用されています。
生薬名はショウキョウ。
漢字では、そのまま「生姜」と書きます。
ショウキョウはショウガの根茎を利用した生薬です。
僕たちが普段野菜として食べているショウガと、同じ植物です。
これだけでも驚きですが、漢方の世界では加工方法によって呼び方や使われ方が変わります。
ショウキョウとは別に、
カンキョウ
という生薬があります。
漢字では「乾姜」です。
ショウキョウとカンキョウは、どちらもショウガが基原ですが、加工方法が異なります。
漢方・生薬の世界では、
「何の植物か」
だけではなく、
「どの部分を使ったか」
「どのように加工したか」
まで重要になるんです。
高校の化学でも、
同じ元素からできていても構造が違えば性質が変わる
という話を学びますよね。
生薬でも、原料だけを見れば同じように思えても、加工によって成分や使われ方に違いが出ることがあります。
こうした部分も、生薬の面白さです。
葛根湯にもショウガが入っている
先ほど紹介した葛根湯にも、ショウキョウが含まれています。
葛根湯と聞くと、
「何かすごく特殊な薬草がいっぱい入っている」
ように感じるかもしれません。
もちろん、普段見る機会の少ない生薬も入っています。
しかし、その中にショウガやシナモンにつながるものが含まれていると考えると、かなり身近に感じられると思います。
漢方薬は、まったく知らない謎の物質だけで作られているわけではありません。
実は、僕たちが普段から知っている植物もたくさん登場します。
身近な生薬③みかんの皮
次は、みかんです。
冬になると、こたつでみかんを食べる人も多いと思います。
普通なら、
中身を食べる。
皮をむく。
皮は捨てる。
ですよね。
ところが生薬の世界では、この「皮」が重要になります。
みかんの皮に関係する代表的な生薬が、
チンピ
です。
漢字では「陳皮」と書きます。
日本薬局方では、ウンシュウミカンなどの成熟した果皮を生薬として利用します。
つまり、
普段僕たちが捨ててしまう部分が、薬の材料として使われることがある
ということです。
これ、面白くないですか?
食べ物として考えれば、
実=必要な部分
皮=いらない部分
になりやすいです。
しかし、薬学という視点から見ると、皮に含まれる成分にも注目します。
「植物のどの部分に、どんな成分が含まれているのか」
を見るのが薬学なんです。
みかんの皮を乾かせば薬になるわけではない
ここも大切なので注意してください。
家で食べたみかんの皮を乾燥させれば、
「はい、漢方薬の陳皮完成!」
というわけではありません。
医薬品として使われる生薬には基原や品質について基準があります。
食品と医薬品は、同じ植物が関係していても、目的も品質管理も異なります。
今回の記事を読んで、
「じゃあ家で生薬を作ってみよう」
とは考えないでください。
薬として使用するものは、きちんと品質が管理されたものを適切に使用する必要があります。
身近な生薬④山椒
次は山椒です。
うなぎにかけたり、料理の香辛料として使ったりしますよね。
舌がピリピリする独特の刺激があります。
この山椒も、日本薬局方に収載されている生薬です。
生薬としてのサンショウでは、成熟した果皮が利用されます。
ここでも面白いのが、
「山椒という植物を全部使う」
のではなく、
果皮を使う
という点です。
植物には、
根。
茎。
葉。
花。
果実。
果皮。
種子。
などさまざまな部分があります。
そして、生薬によって使う場所が違います。
高校生の皆さんは、生物の授業で植物の構造を習うと思います。
その知識が、薬学部へ進むと、
「この植物のどこを薬として使うのか」
という学びにつながってきます。
高校で学んでいる生物や化学は、大学の薬学とちゃんとつながっています。
山椒が登場する有名な漢方薬
山椒が配合される代表的な漢方薬の一つに、大建中湯があります。
「山椒=うなぎ」
というイメージしかなかった人からすると、
「山椒が薬になるの?」
と思うかもしれません。
しかし、薬学の世界では、普段食べているものの中に含まれる化学成分について考えます。
なぜ辛いのか。
なぜ香りがあるのか。
体に入るとどのように作用するのか。
どんな成分が含まれているのか。
こういう疑問を科学的に考えていくのが薬学の面白いところです。
身近な生薬⑤ナツメ
次はナツメです。
日本では毎日の食卓に必ず出てくるほど一般的な果物ではありませんが、ドライフルーツや薬膳料理などで見たことがある人もいると思います。
ナツメの果実を使った生薬を、
タイソウ
といいます。
漢字では「大棗」と書きます。
先ほどの葛根湯にも、この大棗が含まれています。
つまり葛根湯には、
ショウガにつながるショウキョウ。
シナモンにつながるケイヒ。
ナツメの果実であるタイソウ。
などが組み合わされているわけです。
漢方薬の成分表を見たことがない人は、
葛根。
麻黄。
大棗。
桂皮。
芍薬。
甘草。
生姜。
と漢字で並んでいるだけで、
「難しそう」
と感じると思います。
でも、
大棗=ナツメ。
桂皮=シナモン。
生姜=ショウガ。
と分かると、一気にイメージが湧きませんか?
漢方薬が少し身近になる瞬間だと思います。
身近な生薬⑥ウコン
ウコンも身近な植物です。
英語ではターメリック。
カレーなどに使われるスパイスとして知っている人も多いでしょう。
黄色い色が特徴的ですよね。
ウコンも日本薬局方に収載されている生薬です。
薬用部位は根茎です。
ウコンに含まれる代表的な成分としてクルクミノイドがあります。
ここでも、
料理に使われるスパイス
と
薬学で扱う生薬
がつながります。
高校生からすると、
化学=試験問題を解く科目
になっているかもしれません。
しかし大学の薬学では、
植物にはどんな成分が含まれているのか。
その成分にはどんな構造があるのか。
どのように分析するのか。
体内でどのように働くのか。
といった方向へ学びが広がっていきます。
高校で学んだ有機化学が、急に現実世界とつながってくるんです。
身近な生薬⑦薄荷
ミント味のガム。
ミントタブレット。
歯磨き粉。
アイス。
高校生にもかなり身近ですよね。
生薬の世界には、
ハッカ
があります。
漢字では「薄荷」です。
生薬としては、ハッカの地上部を利用します。
さらに、ハッカから得られる精油であるハッカ油も、日本薬局方に収載されています。
ハッカ油にはメントールが含まれています。
メントールという名前なら、聞いたことがある高校生もいると思います。
「スーッとする成分」
として有名ですよね。
ここまでくると、
漢方や生薬って、意外と日常生活の中にあるものとつながっている
という感覚が出てくると思います。
身近な生薬⑧フェンネル
料理が好きな人なら、
フェンネル
というハーブやスパイスを聞いたことがあるかもしれません。
このフェンネルに関係する生薬が、
ウイキョウ
です。
漢字では「茴香」と書きます。
ウイキョウでは果実を利用します。
このように、
シナモン。
ショウガ。
ターメリック。
フェンネル。
と見ていくと、世界各地の料理で使われるスパイスと、生薬の世界にはかなり接点があります。
なぜ植物は独特な香りを持っているのでしょうか。
なぜ辛味があるのでしょうか。
なぜ人間の体に影響を与える成分を作るのでしょうか。
こうした疑問を考え始めると、植物と薬の世界は一気に面白くなります。
身近な生薬⑨葛根は「クズ」の根
葛根湯の名前にもなっている、
カッコン。
漢字では「葛根」です。
「葛の根」と書いてあるので、実はかなりそのままです。
カッコンは、植物のクズの根を利用した生薬です。
葛餅や葛切りなどで「葛」という名前を知っている人もいるでしょう。
ただし、ここでも注意が必要です。
葛粉と生薬のカッコンは、同じ植物につながっていますが、同じものとして扱うわけではありません。
葛粉は主にデンプンを食品として利用するものです。
一方、生薬のカッコンでは、クズの根そのものを薬用として利用します。
同じ植物でも、
どの部分を使うのか。
どの成分を利用するのか。
何の目的で使うのか。
によって全く違ったものになります。
これも薬学の面白いところです。
さらに驚き!はちみつも日本薬局方に載っている
ここまで植物が中心でしたが、もっと身近なものもあります。
はちみつです。
パンにつけたり、ヨーグルトに入れたりしますよね。
実はハチミツも、日本薬局方の「生薬等」に収載されています。
日本薬局方では、ミツバチが巣に集めた甘味物を採集したものとして定義されています。
「はちみつまで薬の世界に登場するの?」
と驚く人も多いと思います。
ただし、これもスーパーで売られている食品のはちみつを、
「薬だからたくさん食べよう」
という意味ではありません。
食品として使う場合と、医薬品として扱う場合では目的が異なります。
身近なものでも、薬学の視点から見ると別の顔を持っている。
その例として非常に面白いと思います。
ここまでの生薬はかなり身近だった
ここまで紹介してきたものを振り返ってみます。
桂皮=シナモンと関係する。
生姜=ショウガ。
陳皮=みかんの皮。
山椒=山椒の果皮。
大棗=ナツメ。
鬱金=ウコン、ターメリック。
薄荷=ハッカ。
茴香=フェンネル。
葛根=クズの根。
蜂蜜=はちみつ。
どうでしょうか。
最初に、
「漢方薬ってよく分からない」
と思っていた人でも、
少しだけ身近になったのではないでしょうか。
でも、生薬の世界の面白さはここからです。
ここまでは、
「なるほど、植物や食べ物が薬になるんだ」
という話でした。
しかし、生薬には、
「え、それを薬にするの?」
と思ってしまうものも存在します。
衝撃の生薬「センソ」
今回、ぜひ高校生の皆さんに知ってほしい生薬があります。
それが、
センソ
です。
漢字では「蟾酥」と書きます。
何から作られると思いますか?
植物の根?
木の皮?
珍しい果物?
違います。
センソは、ヒキガエルの耳の後ろ付近にある耳腺から得られる分泌物を集めた生薬です。
急に世界観が変わりましたよね。
シナモン。
ショウガ。
みかん。
と来て、
ヒキガエルの分泌物です。
「そんなものまで薬になるの?」
と思うはずです。
でも、これが生薬の世界なんです。
センソは日本薬局方にも収載されている
センソは、単なる昔の民間伝承として紹介されているわけではありません。
現在の日本薬局方にも収載されている生薬です。
基原となるヒキガエルの種類や、使用するものについても定められています。
センソにはブフォステロイドと呼ばれる成分が含まれます。
このような成分は心臓などに強く作用する可能性があるため、
「カエルから取れるなら、自分でも取れそう」
などとは絶対に考えないでください。
生薬=自然のもの=安全
ではありません。
ここは漢方や生薬を理解するときに非常に大切です。
「天然だから安全」は大きな勘違い
漢方薬について話していると、
「漢方は天然だから副作用がないですよね?」
というイメージを持っている人がいます。
しかし、これは間違いです。
自然界にあるものだから安全とは限りません。
考えてみれば当たり前ですよね。
毒キノコも天然です。
毒を持つ植物も天然です。
毒を持つ動物も天然です。
自然界には、人間の体へ強く作用する化学物質がたくさん存在します。
薬になる成分と毒になる成分は、
「天然か人工か」
だけで分けられるものではありません。
量。
使い方。
組み合わせ。
体質。
病気。
服用しているほかの薬。
などによって、安全性は変わります。
漢方薬にも副作用や注意すべき相互作用があります。
だからこそ医薬品として扱う場合には、適切な用法・用量を守る必要があります。
さらにすごい生薬①ゴオウは牛の胆石
センソだけでもかなり衝撃的ですが、生薬の世界にはまだあります。
ゴオウ。
漢字では「牛黄」と書きます。
ゴオウは、牛の胆のうの中にできた結石を利用する生薬です。
つまり、
牛の胆石
です。
普通なら、
「病気によってできた石」
というイメージですよね。
しかし、それが生薬として利用されてきた歴史があります。
シナモンやショウガから始まった話が、
牛の胆石
まで来ました。
生薬の範囲がどれだけ広いのかが分かると思います。
さらにすごい生薬②ボレイはカキの貝殻
次はボレイ。
漢字では「牡蛎」と書きます。
生薬としてのボレイは、
カキの身
ではありません。
貝殻です。
海でカキを食べた後に残る、あの硬い殻です。
これも生薬として利用されます。
「植物の成分を薬にする」
だけだった世界から、
動物。
分泌物。
結石。
貝殻。
と一気に広がってきます。
生薬という言葉のイメージがかなり変わってきたのではないでしょうか。
さらにすごい生薬③リュウコツは本当に「骨」
そして、名前だけでもインパクトがあるのが、
リュウコツ。
漢字で、
「竜骨」
と書きます。
「ドラゴンの骨?」
と思いますよね。
さすがにドラゴンではありません。
日本薬局方では、大型哺乳動物の化石化した骨をリュウコツとしています。
主成分は炭酸カルシウムなどです。
ただの植物だけではなく、
化石化した動物の骨まで薬として利用されてきた
ということです。
高校生の皆さんがイメージしていた「薬」とは、かなり違う世界ではないでしょうか。
なぜこんなものを薬にしようと思ったのか?
ここまで来ると、一つの疑問が出てきます。
「昔の人は、なんでカエルの分泌物や牛の胆石を薬にしようと思ったの?」
めちゃくちゃ気になりますよね。
現代のように、
化学構造を分析する装置。
細胞を使った実験。
動物実験。
臨床試験。
が十分に整っていない時代から、人間は身の回りにある植物や動物、鉱物を利用してきました。
その長い経験の中で、
この植物を使うとこうなる。
この組み合わせではこうなる。
という知識が蓄積されていきました。
その一方で、現代の薬学では、
「昔から使われているから正しい」
だけでは終わりません。
何の成分が入っているのか。
どのように作用するのか。
品質は一定なのか。
安全性はどうなのか。
どのように分析できるのか。
といったことを、科学的に研究します。
伝統的な知識と現代科学が交わるところに、生薬学や漢方の面白さがあります。
高校化学と生薬はかなりつながっている
薬学部を目指している高校生には、ぜひこの部分も知ってほしいです。
今、
有機化学が覚えられない。
構造式が嫌い。
官能基が多すぎる。
反応式が覚えられない。
と思っている人もいるかもしれません。
しかし、薬学部に進むと、
その化学が「薬」という現実のものにつながってきます。
植物に含まれる成分も化学物質です。
香りの成分も化学物質です。
辛味の原因も化学物質です。
薬として作用する成分も化学物質です。
生薬を勉強するときにも、
どの成分が入っているのか。
どんな構造を持っているのか。
どうやって成分を取り出すのか。
どうやって分析するのか。
といった化学の知識が必要になります。
高校化学で勉強していることは、
大学入試で点数を取るためだけの知識
ではありません。
その先に薬学の世界があります。
高校生物ともつながっている
生物も同じです。
植物の根。
茎。
葉。
果実。
種子。
こうした構造を知っていることは、生薬を理解するうえでも役立ちます。
さらに薬が人間の体に入った後を考えれば、
消化。
吸収。
血液循環。
神経。
ホルモン。
免疫。
肝臓。
腎臓。
など、高校生物で学ぶ内容が薬理学や生理学、病態学へつながっていきます。
だから、
「薬学部に行きたいけど、高校の理科は受験のために仕方なくやっている」
という人には、
ぜひ大学での学びを少し調べてみてほしいです。
今勉強している内容の見え方が変わるかもしれません。
薬学部では「生薬学」を学ぶ
薬学部へ進学すると、生薬や天然物について学ぶ機会があります。
大学によって授業名やカリキュラムは異なりますが、
生薬学。
天然物化学。
薬用植物学。
漢方医学。
など、生薬や天然由来成分につながる科目を学ぶことがあります。
そこでは、
これは何の植物なのか。
どの部位を薬として使うのか。
どんな成分が含まれているのか。
どんな漢方処方に配合されるのか。
どうやって品質を確認するのか。
といったことを学びます。
高校生から見ると、
「薬学部=薬剤師国家試験の勉強をするところ」
と思うかもしれません。
しかし、薬学はかなり広い学問です。
化学。
生物。
物理。
医療。
病気。
薬物治療。
統計。
研究。
法律。
公衆衛生。
そして、生薬や漢方。
いろいろな分野を学びます。
漢方に興味があるなら大学選びにも生かせる
薬学部志望の高校生の中には、
「将来、漢方に強い薬剤師になりたい」
という人もいます。
その場合は、大学を偏差値だけで選ばず、
漢方や生薬についてどのような教育があるのか。
薬用植物園があるのか。
生薬や天然物を研究している研究室があるのか。
漢方医学について学ぶ授業があるのか。
どんな研究テーマがあるのか。
などを調べてみるとよいでしょう。
オープンキャンパスでも、
「薬剤師国家試験合格率は何%ですか?」
だけではなく、
「漢方や生薬について興味があるのですが、どのような授業や研究がありますか?」
と聞いてみるのも面白いと思います。
大学によって特色があります。
自分が興味を持てる分野がある大学を探すことも、志望校選びの一つです。
漢方薬は決して「昔の薬」ではない
漢方と聞くと、
昔の医学
というイメージを持つ人もいます。
確かに漢方医学には長い歴史があります。
しかし現在の日本でも、漢方薬は医療の現場で使われています。
病院で医師から漢方薬を処方された経験がある人もいるでしょう。
薬局で漢方薬を受け取ったことがある人もいるかもしれません。
つまり漢方は、
歴史の教科書に出てくる昔の薬
だけではありません。
現代医療の中でも使われている薬です。
だから薬剤師を目指すのであれば、漢方薬について学ぶ意味があります。
患者さんから、
「この漢方薬は何の薬ですか?」
「ほかの薬と一緒に飲んでも大丈夫ですか?」
「漢方なら副作用はないですよね?」
と聞かれることも考えられます。
そのとき、
「天然だから大丈夫だと思います」
では薬剤師として困りますよね。
薬の専門家として、正しい知識を持って説明する必要があります。
漢方薬は「優しい薬」とは限らない
ここも高校生のうちから覚えておいてほしいです。
漢方薬について、
体に優しい。
副作用が少ない。
自然だから安心。
というイメージを持つ人がいます。
しかし、
漢方=安全
とは言えません。
生薬にも体へ作用する成分があります。
作用があるからこそ薬として使われます。
そして作用がある以上、使い方によっては望ましくない作用が起こる可能性もあります。
ほかの薬との組み合わせ。
持病。
服用量。
服用期間。
体質。
などによって注意が必要になることがあります。
漢方薬だから自分で好きな量を飲んでよい、ということではありません。
今回紹介したセンソのように、非常に強い作用を持つ成分を含む生薬もあります。
自然由来だから安全なのではなく、
正しく使うから薬になる
と考えてほしいです。
食べ物と薬の境界を見ると薬学が面白くなる
今回の記事で一番伝えたいのは、
「漢方薬の名前を覚えてほしい」
ということではありません。
普段何気なく見ているものでも、薬学という視点を持つと見え方が変わる
ということです。
シナモンを見たとき、
桂皮を思い出す。
ショウガを見たとき、
生姜や乾姜を思い出す。
みかんを食べたとき、
皮は陳皮とつながることを思い出す。
山椒を見たとき、
生薬として果皮が使われることを思い出す。
葛根湯を見たとき、
「葛根湯」という一つの物質ではなく、複数の生薬が組み合わされていることを思い出す。
そうすると、薬が急に身近なものになります。
薬学部で学ぶことも、
教科書の中だけの話ではない
と分かってきます。
身近なものから疑問を持てる人は薬学に向いている
薬学部を目指している高校生には、
「覚えることが好きじゃないと薬学部に向いていませんか?」
と聞かれることがあります。
もちろん、薬学部では覚えることも多いです。
しかし、それ以上に大切だと思うのが、
「なんで?」
と思えることです。
なぜシナモンが薬になるのか。
なぜショウガを加工すると呼び方が変わるのか。
なぜみかんの実ではなく皮を使うのか。
なぜカエルの分泌物に薬として利用できる成分があるのか。
なぜ牛の胆石を使おうと思ったのか。
なぜ複数の生薬を組み合わせるのか。
こうした疑問を面白いと思える人にとって、薬学はかなり魅力的な学問だと思います。
まとめ|漢方薬は思っているよりずっと身近で、ずっと奥深い
今回は、
「身近な食べ物が実は生薬とつながっている」
というテーマから、漢方と生薬について紹介しました。
シナモンと関係する桂皮。
ショウガを使う生姜。
みかんの皮を使う陳皮。
山椒の果皮を使う山椒。
ナツメの果実を使う大棗。
ターメリックとして身近な鬱金。
ミントとつながる薄荷。
フェンネルとつながる茴香。
クズの根を使う葛根。
そして、日本薬局方にも登場する蜂蜜。
こうして見ると、生薬は意外なほど僕たちの身近なところにあります。
一方で、生薬の世界には植物だけではありません。
ヒキガエルの分泌物から作られるセンソ。
牛の胆のうにできた結石であるゴオウ。
カキの貝殻を利用するボレイ。
大型哺乳類の化石化した骨であるリュウコツ。
「そんなものまで薬になるの?」
というものまであります。
これが、生薬の奥深さです。
漢方薬という茶色い粉だけを見ていると、その中に何が入っているのかは分かりません。
でも、一つひとつの生薬を調べてみると、
植物学。
化学。
生物学。
医療。
歴史。
文化。
いろいろな分野がつながっています。
そして、その一つひとつを科学的に研究するのが現代の薬学です。
薬学部を目指している高校生は、ぜひ身近なものから薬学を見つけてみてください。
スーパーにあるショウガ。
家にあるシナモン。
冬に食べるみかん。
うなぎにかける山椒。
その一つひとつが、薬学の世界への入り口になるかもしれません。
「薬学って、意外と面白いかも」
そう感じてもらえたら嬉しいです。
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